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                  小児神経症 第一回入門講座 

                       治療編    
             
  週2〜3回配信   1998.11.10.    通しNo.8       読者数 248 人

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          目次       小児神経症の治療
                        〔自由拡張性自由損傷症候群〕         
             〔人間的症状を持つ頼もしい子供たちの治療〕
                                        
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           〔自由拡張性自由損傷症候群〕


 私達人間社会は主体的存在によって運営されています。もし私達に主体性が
ないならば、環境破壊も戦争も、また諸々の社会的諍(いさか)いもありませ
ん。従って、軍事力も、警察力も、司法力も存在しないでしょう。
 こゝには二重の意味があり、一つは本能の個体性世界であればということ、
もうひとつはすべての人間が精神自由損傷症候群であればということです。


 古代世界への懐旧は、無意識的摂理主体世界への懐かしさに駆られてのこと
です、この自然に従う主体性の世界は優柔不断で、何事も速やかに展開しない
世界ですが、争いのないのが何よりです。
 精神神経症主体は理念を本能存在からすくい上げた、生の本能の情官に置い
ています。言い換えれば本能で動く主体性です。これを半主体性といってもよ
いでしょう。


 来日した他国の人々、とくに西欧の人々が我が国の社会に暫く居て感じるこ
との第一は、自国に居たときに感じていた主体的緊張がなくなって、存在がゆ
るんで楽になったということです。
 これは通常神経症を含む日本社会の主体的自由損傷を言い当てているととも
に、精神神経症の存在の本来性を以って生きる生き方に感応した結果です。


 精神神経症主体に接すると命の懐かしさに触れることができます。偽自立
(偽自律)主体を除く自由損傷主体全体との接触の印象は、自己主張しなけれ
ば社会から弾かれてしまう不安と恐怖が拭い去られて、価値的には安定しない
までも、沈没の危険性を感じないものです。


 キャリア・ウーマンやシングル・ライフ志向は、物質文明社会での世界的傾
向でしょうが、我が国の現象については、この沈没の危険性なき国民性がその
助長に大いに力を貸しているものと思われます。
  キャリア・ウーマンやシングル・ライフは同じひとつの土壌から発していま
す。我が国の場合は、キャリア・ウーマンは男女同権を出発点にしていること
から、もはや遠いところに来てしまっており、今やシングル・ライフと同じ土
壌に移植されています。

      ∴キャリア・ウーマンやシングル・ライフ志向:
      「志向」は、「やむなく選択せざるを得ない状況におかれている」
       こととは、区別されます。


 キャリア・ウーマンがシングル・ライフと結合するのは、自由損傷症候群が
自由拡張症候群のオブラートに包まれて自律葛藤を凍結した場合です。とくに
我が国の場合は、自由損傷主体が脂ぎった真性の自由拡張主体からの退避行動
として、「モノ(一流商品、一流の地位、旅行や種々の免許や趣味や遊びや習
い事を行なえる能力と身分)」所有に埋没した姿であると言えます。
 一流商品についての知識が豊富な「モノ語り症候群」という命名をした方が
いますが、「モノ」に取り憑かれた彼女達の実態の一面をよく表わしています。


 これらの「モノ」へのあらゆる意味に於ける所有努力は、あたかも自身が
「モノ存在」となったかのように「モノ」を身に纏うために為されるようです。
もはや自由拡張主体と自由拡張度を張り合うために為されるのではなく、物質
文明それ自体を対象として、物質のアイデンティティを身に付けた奇妙な主体
性であるかのようです。生活そのものが、「肉体のないネーム・バリュー」と
化した存在といえるでしょう。


 この新たな精神疾患は、「モノ」に囲繞(いにょう)された世界であるゆえ
に出現したもので、この疾患主体に於ては、自然も箱庭や盆栽のように愛でる
もののようです。「モノ舞台」上で”演じられる”「モノ存在の物語」を紡ぐ
ことに執念を持つこの疾患主体は、生身の存在が浸されている根本情態性世界
から隔絶された世界の仮象の存在性を、自身で了解しながら演じているようで
す。
 彼女は、あたかも俳優のように、いつでもこの舞台で演じるために、根本情
態性に呪縛されている肉体を抜けて、登場してくるのです。


 急速に増加している、中年以後の「熟年離婚」や、壮年以後のもはや他人関
係に近い「家庭内離婚」の主たる原因は、男女両者の、この「モノ存在性」に
あると言えるでしょう。
  脂ぎった自由拡張症候群が精神主体性に対して仮象の存在であるなら、この
「モノ存在」は仮象の更なる仮象と言えます。この仮象の仮象は、肉を持つ存
在性を放棄して、モノ世界の中に自らを結晶化させてしまっているのです。